フォーム営業の教科書 第3部 送る
第8章 返信対応から商談へ
アポツム編集部情報は2026年11月時点

フォーム営業でつくりたいのは、送信の件数ではなく商談です。ところが、せっかく返信をもらっても、返事が遅れたり、日程調整の往復が続いたりして、商談にたどり着かないことがあります。商談の場で説明ばかりして、相手の状況を聞けずに終わることもあります。
この章では、返信を受けてから初回の商談を終え、次の約束をするまでを順に説明します。扱うのは、返信の種類ごとの返し方と例文、日程の候補の出し方、商談の前の準備です。ヒアリングの項目、よく使われる枠組み、商談のあとのフォロー、記録のしかたも説明します。
読み終えると、返信の1通1通を取りこぼさずに、商談と次の一歩につなげられるようになります。
8-1 返信を受けたら最初にすること
返信を受けたら、すぐに返事を書き始めたくなります。その前に、次の流れで状況を確かめます。

図の内容を文字で読む
- 種類を分ける前向き・質問・断りなど8種類
- 送信記録と照らすいつ何を送った相手か確かめる
- 記録に残す受けた日時・種類・相手を書く
- 返事を送る社内で決めた時間のうちに返す
- 次の行動を決める日程・資料・停止の反映など
- 種類を分ける:前向き、質問、資料の希望、時期が早い、担当違い、断り、停止の依頼、苦情の8つに分けます。返し方は8-2で説明します。
- 送信記録と照らす:相手は、こちらが送った文面を前提に返信しています。いつ、どの文面を送ったか、文面で何を約束したか(資料、無料の診断など)を確かめます。
- 記録に残す:返信を受けた日時、種類、相手の担当者を記録します。記録のしかたは8-8で説明します。
- 返事を送る:社内で決めた時間のうちに返します。
- 次の行動を決める:日程調整、資料の送付、NGリストへの反映など、次にすることと期日を決めます。
返信の速さ
返事の速さについては、よく引かれる調査があります。Oldroyd らが Harvard Business Review(HBR)の2011年3月号に書いた記事「The Short Life of Online Sales Leads」です。ここで挙げる数字は、この HBR の記事(2011年)によります。
著者らは、米国の企業2,241社に、ウェブから試しの問い合わせを送り、返事までの時間を測りました。1時間以内に返した企業は37%でした。23%は、まったく返しませんでした。30日以内に返した企業に限ると、返事までの平均は42時間でした。
同じ記事は、別の調査の結果も紹介しています。米国の42社が受けた、約125万件の問い合わせを調べたものです。1時間以内に連絡を試みた企業は、それより1時間遅れた企業と比べて、見込み客を見きわめられた割合が7倍近くでした。ここでの「見きわめ」は、決定に関わる主な人と中身のある話ができたことを指します。
どちらの調査も、米国で、買い手が自分から問い合わせたときの対応を調べたものです。フォーム営業の返信とは条件が違い、時期も古いため、数字をそのまま当てはめることはできません。著者の1人は、営業を支援するソフトウェアの会社の経営者でもありました。それでも、相手が関心を持った直後に返すほうがよい、という考え方の参考になります。
社内では、たとえば次のような目安を決めておきます。
- 営業時間中に届いた返信は、その日のうちに返す
- 営業時間の外に届いた返信は、翌営業日の午前中に返す
- すぐに答えられない質問には、まず受け取ったことと、答える日を返す
8-2 返信の種類と返し方
返信は、次の8種類に分けて返します。
| 種類 | 相手の言葉の例 | 返し方の要点 |
|---|---|---|
| 前向き | 「一度お話を伺いたい」 | お礼と日程の候補・予約リンクをすぐ送る(8-3) |
| 質問 | 「料金はいくらですか」 | 答えられることを先に答え、短い説明の場を提案する |
| 資料の希望 | 「資料を送ってください」 | 資料を送り、相手に関係するページを示す |
| 時期が早い | 「来年度なら検討できます」 | 時期を確かめ、改めて連絡してよいかを聞く |
| 担当違い | 「担当は別の部署です」 | お礼を伝え、回してもらえるかを聞く。無理に頼まない |
| 断り | 「今は必要ありません」 | お礼を伝えて引く。理由を問いたださない |
| 停止の依頼 | 「今後の連絡は不要です」 | NGリストに入れてから、停止したことだけを返す |
| 苦情 | 「営業お断りと書いてあります」 | 責任者に回し、まずおわびする。言い訳しない |
返事の基本の形
この章の例文は、どれも返信を受けたあとに送る返事やお礼です。こちらから先に送る文面の例文は、第6章にまとめています。どの返事も、次の形にそろえます。
- 件名:相手の返信の件名を変えずに返す。やりとりが1つにまとまり、相手が経緯をたどりやすい
- 宛名:相手の会社名・部署名・名前。分からない部分は「ご担当者様」にする
- 名乗り:自分の会社名と名前。相手が思い出しやすいよう、どの連絡を送った者かも添える(例:「先日、お問い合わせフォームからご案内をお送りしました」)
- 本文:相手の返信に答える。お願いは1つにする
- 停止の案内:前向きな相手・質問をくれた相手にも、連絡が不要なときの伝え方を一文添える。断り・停止の依頼・苦情への返事では、連絡を控えることだけを書く
- 送信者の情報:会社名・部署・名前・住所・電話・メール・会社のサイトのURL
質問への返事
質問には、まず答えます。答えずに「詳しくは商談で」と返すと、相手は面倒に感じます。答えたうえで、短い説明の場を1つだけ提案します。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日、貴社のお問い合わせフォームからご案内をお送りしました。ご返信いただき、ありがとうございます。 ご質問の料金について、お答えします。 ・月額の利用料:1名あたり〔金額〕円(税別) ・初期費用:〔金額〕円(税別) ・ご利用の人数:〔人数〕名から くわしい料金表は、下記のページに載せています。 https://example.com/price 貴社の場合の金額は、ご利用予定の人数でお出しできます。よろしければ、15分ほどオンラインでご説明し、その場でお見積もりもお出しします。ご都合のよい日時を、下記からお選びください。 https://example.com/booking 今後のご案内が不要でしたら、その旨をご返信ください。以後のご連絡を控えます。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
資料の希望への返事
資料を送るときは、相手に関係する部分を示します。全部を読んでもらう前提にしないことが大切です。共有のURLで渡すときは、期限と閲覧の権限を確かめてから送ります(第7章)。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日、貴社のお問い合わせフォームからご案内をお送りしました。ご返信いただき、ありがとうございます。 ご希望の資料「〔資料名〕」(PDF・12ページ)は、下記からご覧いただけます。 https://example.com/document (公開の期限:〔日付〕まで) 貴社と同じ飲食業の事例は、5〜7ページにまとめています。お時間がないときは、そこだけでもご覧ください。 ご不明な点がございましたら、このメールにご返信ください。 今後のご案内が不要でしたら、その旨をご返信ください。以後のご連絡を控えます。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
「時期が早い」への返事
時期が早いという返事は、断りではありません。いつごろなら検討できるかを確かめ、改めて連絡してよいかの許可をもらいます。許可がもらえなかったら、こちらからは連絡しません。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日、貴社のお問い合わせフォームからご案内をお送りしました。ご返信いただき、ありがとうございます。 来年度にご検討とのこと、承知いたしました。 差し支えなければ、来年度のご検討に間に合うよう、来年2月ごろに改めてご連絡してもよろしいでしょうか。その際は、貴社と同じ飲食業の新しい事例をお届けします。 よろしければ、ひと言ご返信ください。お返事がない場合は、こちらからのご連絡は控えます。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
担当違いへの返事
担当の部署を教えてもらえたら、お礼を伝えます。回してもらうのは相手の手間になるので、断ってよいことをはっきり書きます。回してもらえたときに1通で伝わるよう、ご案内の要点も添えます。同じ会社のフォームに、部署名を変えて送り直すことはしません。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日、貴社のお問い合わせフォームからご案内をお送りしました。ご連絡いただき、ありがとうございます。 ご担当が人事部であること、承知いたしました。 お手数をおかけしますが、このメールを人事部のご担当者様へお回しいただけますと幸いです。難しい場合は、このままで結構です。 お回しいただく場合に備えて、ご案内の要点を記します。 【ご案内の要点】 ・内容:〔サービス名〕で、〔相手の課題〕の手間を減らすご提案 ・ご用意できるもの:〔資料・事例〕 ・お問い合わせ先:下記の山田まで 今後のご案内が不要でしたら、その旨をご返信ください。以後のご連絡を控えます。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
断り・停止の依頼・苦情への返事
断りには、短くお礼を伝えて引きます。理由を聞きたくなっても、問いただすのはやめましょう。断りを受けた会社には、その後も送りません(第7章)。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 ご返信いただき、ありがとうございます。 今回は見送りとのこと、承知いたしました。お忙しいところ、ご検討いただきありがとうございました。 今後、こちらからご案内をお送りすることは控えます。お役に立てることがありましたら、下記までご連絡ください。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
停止の依頼には、停止したことだけを返します。商品の案内は一切入れません。返事を送る前に、NGリストへの反映をすませます。
株式会社〇〇 ご担当者様 株式会社△△の山田です。 ご連絡いただき、ありがとうございます。このたびはご迷惑をおかけし、申し訳ございません。 本日、貴社を当社の営業の送付先から外しました。今後、お問い合わせフォーム・メール・お電話のいずれでも、当社から営業のご連絡を差し上げることはございません。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
苦情は、担当者だけで返さず、運用の責任者に回します。相手の指摘(「営業お断り」の表示があったかなど)は、返事の前にその場で確かめます。最初の返事では、言い訳をせずにおわびします。そのうえで、今後は営業の連絡をしないこと、経緯を確かめていること、いつまでに報告するかを伝えます。
株式会社〇〇 ご担当者様 株式会社△△で営業部の責任者をしております、鈴木と申します。 貴社のお問い合わせフォームには、営業のご連絡をお断りするご案内がありました。それにもかかわらず、当社の担当者がご提案をお送りしました。ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません。 本日、貴社を当社の営業の送付先から外しました。今後、当社から営業のご連絡を差し上げることはございません。 現在、経緯を確かめ、社内の確認の手順を見直しております。確かめた内容は、〔日付〕までにご報告いたします。ご報告が不要でしたら、その旨をお知らせください。 株式会社△△ 営業部 部長 鈴木一郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
苦情への対応の手順は、第11章でくわしく説明します。
8-3 日程調整:候補の出し方と予約リンク
前向きな返信には、お礼と日程の提案を一度に送ります。日程の伝え方は3つあります。候補の日時を文で書く方法、予約リンクを送る方法、その両方を書く方法です。
予約リンクは、相手が空いている日時を選ぶだけで済むので、往復が少なくなります。一方で、初めてのやりとりでリンクだけを送ると、「自分で選んでおいて」と言われているように感じる人もいます。また、相手の会社から何人も参加するときは、文で出した候補を窓口の方に社内で回してもらうと、早く決まります。最初の返事では、候補を文で3つほど書き、予約リンクも添える形がおすすめです。
候補の出し方
- 3つほど出す:多すぎると選びにくく、少なすぎると合わない
- 日と時間帯を散らす:同じ日の午前ばかりにせず、違う曜日・午前と午後を混ぜる
- 近すぎず遠すぎない日にする:相手の社内調整の時間を見込み、たとえば返事の2営業日後から2週間以内にする
- 必要な情報をそろえる:日付と曜日、開始と終了の時刻、所要時間、形式(オンライン・訪問)
- 候補は仮に押さえる:返事を待つ間に、ほかの予定を入れない。いつまで押さえるかも書く
- 合わないときの頼み方を添える:別の日時を教えてもらう一文を入れる
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日、貴社のお問い合わせフォームからご案内をお送りしました。ご返信いただき、ありがとうございます。 お話の機会をいただけるとのこと、大変ありがたく存じます。 当日は30分ほど、オンラインで貴社の予約受付の状況を伺い、近い業種の事例をご紹介できればと考えております。 下記の日時はいかがでしょうか。 ・11月12日(木)10:00〜10:30 ・11月13日(金)15:00〜15:30 ・11月17日(火)11:00〜11:30 上記の日時は、11月10日(火)まで空けてお待ちします。 予約ページから、ご都合のよい日時を選んでいただくこともできます。 https://example.com/booking いずれも合わない場合は、ご都合のよい日時をお知らせください。会議のURLは、日程が決まりしだいお送りします。 ご案内が不要になりましたら、このメールにひと言ご返信ください。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
日程が決まったら
日程が決まったら、すぐに確定の連絡を送ります。日時、形式、会議のURL、参加者、当日の流れを書きます。この時点で、記録の段階を「商談予定」にし、商談数(アポ数)に数えます。前日には、日時と会議のURLを短く確認する連絡を送ると、行き違いを防げます。
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 日程のご調整をいただき、ありがとうございます。下記のとおり承りました。 日時:11月13日(金)15:00〜15:30 形式:オンライン(https://example.com/meeting) 当社の参加者:営業部 山田 当日の流れ:貴社の状況を伺ったうえで、飲食業の事例を10分ほどでご紹介します。 ほかにご同席の方がいらっしゃれば、お知らせください。前日に、日時と会議のURLを改めてお送りします。 ご都合が変わった場合や、ご案内が不要になった場合も、このメールにご返信ください。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
8-4 商談の前の準備
商談の準備でやることは、相手を調べる、仮説を立てる、進め方の案を作る、の3つです。
相手を調べる
次の順に見ていきます。送った文面を作るときに調べた内容も、見直しておきます。
- 相手のサイト:事業の内容、主な顧客、拠点、会社の規模
- ニュースとお知らせ:新しいサービス、拠点の開設、受賞など、最近の動き
- 採用の情報:募集している職種から、伸ばそうとしている分野が分かる
- 決算の資料:上場企業なら、事業の方針や課題が書かれている
- 返信の文面と、こちらが送った文面:相手が何に反応したか
仮説を立てる
調べたことから、「相手はこういうことに困っているのではないか」という仮説を2〜3つ立てます。仮説は、決めつけるためではなく、商談で確かめる質問を作るために使います。
会社:株式会社〇〇(飲食店を12店舗運営) 返信した人:佐藤様(総務部) 最近の動き:来春に新店舗を2つ開く予定(お知らせより) 仮説1:店舗が増えて、予約受付の手間が増えている → 確かめる質問:いま予約は、どのように受けていますか 仮説2:新店舗のスタッフの教育に時間がかかっている → 確かめる質問:新しい店舗の立ち上げで、手間がかかりそうなことは何ですか 今日のゴール:課題と決め方を伺い、次回の提案の日程を決める
進め方の案を作る
30分の商談なら、たとえば次のように時間を配分します。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 最初の3分 | お礼と自己紹介。今日の目的と終わりの時刻を確かめる |
| 次の12分 | ヒアリング(8-5の項目) |
| 次の10分 | 伺った課題に合う部分だけを説明する |
| 最後の5分 | 質問に答え、次の約束を決める |
社内の同席者がいる場合は、誰が何を話すか、前日までにすり合わせておきます。
8-5 初回の商談の進め方とヒアリング
初回の商談の目的は、売り込むことではありません。相手の状況を知り、提案する意味があるかを、相手と一緒に確かめることです。そのため、話す時間よりも聞く時間を長くします。
ヒアリングの項目
初回の商談で聞く項目と、質問の例を挙げます。全部を1回で聞く必要はありません。
| 項目 | 質問の例 |
|---|---|
| 現状 | いまは〇〇を、どのように行っていますか |
| 課題 | その中で、手間や困りごとはどこにありますか |
| 影響 | その困りごとで、時間や費用はどのくらいかかっていますか |
| これまでの取り組み | これまでに試した方法はありますか。結果はどうでしたか |
| 目指す状態 | どうなれば「解決した」と言えますか |
| きっかけと時期 | なぜ今、検討されているのですか。いつまでに決めたいですか |
| 決め方 | 導入を決めるときは、どなたが、どんな流れで決めますか |
| 予算の考え方 | 予算は決まっていますか。決まっていなければ、どう決まりますか |
| 比べている方法 | ほかに検討している方法はありますか |
| 次の一歩 | 次に、どなたと何を確かめればよいですか |
聞き方のコツ
- 1回に聞くことは1つにする。質問を重ねると、相手はどこから答えるか迷う
- メモは、相手が使った言い方をそのまま書く。要約しすぎると、相手の意図から離れていく
- 相手が困りごとを話し始めたら、自社の説明に移らず、話し終えるまで待つ
- その日に聞けなかった項目には「未確認」の印をつけ、次の商談で聞く
- 雑談で出た家族や趣味の話など、仕事に要らないことは記録に残さない
よくある失敗
- 資料を最初から最後まで読み上げ、相手の話を聞く時間がなくなる
- 予算から聞いてしまい、相手が身構える
- 「検討します」で終わり、次の約束を決めずに解散する
最後の失敗を防ぐには、終わりの5分で「次に誰が、いつまでに、何をするか」を決めます。次の打ち合わせが必要なら、その場で日時を決めるか、当日中に候補を送ります。
8-6 よく使われる枠組み:BANT と MEDDIC
商談を前に進めてよいかを見きわめるための、よく使われる枠組みがあります。聞くべき観点をまとめたチェックリストと考えると分かりやすいでしょう。
BANT
BANT(バント)は、次の4つの頭文字です。
- Budget(予算):お金を出せるか。予算は決まっているか
- Authority(決める権限):決める人は誰か。その人と話せているか
- Need(必要性):解決したい課題があるか
- Timeframe(時期):いつまでに決めたいか(Timing とも書く)
実際に使われている例として、IBM が販売パートナー向けに公開している書式があります(IBM「BANT Criteria Template v3.3」、2013年)。商談を登録するときに、この4つを書く欄があります。どれかの記述が欠けた登録は、不完全として受け付けないとしています。
MEDDIC
MEDDIC(メディック)は、次の6つの頭文字です。
- Metrics(効果の数字):導入でどんな効果を、どのくらい見込むか
- Economic Buyer(お金の使い道を決める人):購入を最終的に決める権限を持つ人
- Decision Criteria(選ぶ基準):何を基準に比べて選ぶか
- Decision Process(決める手順):誰が、どんな順番で決めるか
- Identify Pain(課題):解決したい痛みは何か
- Champion(社内の推進役):相手の社内で、導入を前に進めてくれる人
その後、競合(Competition)や契約の手続き(Paper Process)を加えた形(MEDDICC、MEDDPICC)も使われています。

図の内容を文字で読む
| 項目 | BANT | MEDDIC |
|---|---|---|
| 項目の数 | 4つ | 6つ |
| 主に見ること | 進める条件がそろうか | 決め方と社内の味方 |
| 向く商談 | 比較的短く小さい商談 | 関わる人が多い商談 |
| 使う時期 | 初回の見きわめ | 商談を重ねて埋める |
BANT は項目が少なく、初回の見きわめに使いやすい枠組みです。MEDDIC は決め方や社内の味方まで見るため、関わる人が多い商談で、商談を重ねながら埋めていくのに向いています。
フォーム営業での使い方
フォーム営業の初回の商談では、相手はまだ情報を集め始めた段階かもしれません。枠組みは、次のように使います。
- 初回は、課題(Need、Identify Pain)を中心に聞く。予算から聞かない
- 枠組みの順番で質問しない。尋問のようになり、相手が話しにくくなる
- 埋まらない項目は「未確認」とし、次回以降に聞く
- 枠組みの項目を、8-8の記録の項目にそろえておく
8-5のヒアリングの項目は、BANT の4つも MEDDIC の主な項目も含むように作っています。自社の商談の大きさに合わせて、どちらを記録の軸にするかを決めましょう。
8-7 商談のあとのフォローと、時期が早い相手
お礼のメールは当日中に
商談のあとは、その日の営業時間のうちにお礼のメールを送ります。お礼に加えて、伺った内容と次の約束を書きます。相手はそのメールを、上司や関係者への報告に使えます。入れるのは次の5つです。
- 時間をもらったお礼
- 伺った課題の要点(相手の言葉で)
- 決まったこと
- 双方がすること(誰が・いつまでに・何を)
- 次回の日時、または日程の候補
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 本日はお時間をいただき、誠にありがとうございました。 伺った内容と、今後の進め方をまとめます。違う点があれば、お知らせください。 【伺った課題】 ・店舗が増え、電話での予約受付に人手がかかっている ・来春の新店舗の開店までに、受付の方法をそろえたい 【今後の進め方】 ・当社:11月20日(金)までに、新店舗を含む14店舗分のお見積もりをお送りします ・貴社:11月25日(水)の店長会議で、受付の方法についてご意見を集めていただきます 【次回】 11月27日(金)10:00〜10:30(オンライン) お見積もりのご説明と、店長会議でのご意見を伺う予定です。 ご検討を見送られる場合も、遠慮なくこのメールにご返信ください。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
「検討します」のあとのフォロー
商談の終わりに「検討します」と言われたら、いつまでに、誰が、何を基準に決めるのかをその場で確かめます。そのうえで、フォローは次のように行います。
- 期限の少し前:相手が判断しやすくなる材料を1つ送る(似た会社の事例、よくある質問への答えなど)
- 期限を過ぎたとき:一度だけ、検討の状況をたずねる
- その後も反応がないとき:連絡を止め、記録の段階を「保留」にする
株式会社〇〇 総務部 佐藤様 株式会社△△の山田です。 先日はお打ち合わせのお時間をいただき、ありがとうございました。 店長会議でのご検討の参考に、店舗数が近い飲食店の事例を1ページにまとめました。 https://example.com/case ご判断に足りない情報があれば、お知らせください。 今後のご案内が不要でしたら、その旨をご返信ください。以後のご連絡を控えます。 株式会社△△ 営業部 山田太郎 〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3 電話:03-0000-0000 メール:sales@example.com https://example.com
時期が早い相手との関係の続け方
「時期が早い」と返事をくれた相手や、商談のあとに「来期に改めて」となった相手は、将来の大切な見込み客です。次のように関係を続けます。
- 次に連絡してよい時期と、その許可をもらったかを記録する
- 決めた時期の少し前に、例文3で約束した内容を添えて連絡する
- 相手に大きな動き(新しい拠点、新しいサービスなど)があれば、記録に書き足しておく
- 許可をもらっていない相手を、メールマガジンなどの配信の宛先に勝手に加えない
最後の点は、特定電子メール法(正式名「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」)の同意の考え方にも関わります。くわしくは第2章で説明します。
8-8 記録のしかた:CRM と表計算
返信から商談、その後のフォローまでを記録しておくと、次の行動を忘れず、担当者が替わっても引き継げます。数字で改善するための材料にもなります(数字の見方は第9章で説明します)。
記録する項目
- 会社名と法人番号(第7章の送信記録とつなぐため)
- 相手の担当者の名前・部署・連絡先(仕事に必要な範囲だけ)
- どの文面への返信か(送信ID、文面の版)
- 返信を受けた日時と、返信の種類
- 今の段階
- 次の行動と、その期日
- ヒアリングで聞いたこと(BANT などの項目ごと。分からなければ「未確認」)
- 見送りや失注の理由
担当者の名前などの個人情報の扱い方は、第2章で説明します。
段階をそろえる
段階の名前と意味は、チームで1つにそろえます。人によって「商談」の意味が違うと、数字が比べられなくなるからです。
| 段階 | 意味 |
|---|---|
| 返信あり | 返信を受けた(種類も記録する) |
| 日程調整中 | 候補か予約リンクを送った |
| 商談予定 | 日程が決まった。ここで商談数(アポ数)に数える |
| 商談済み | 初回の商談をした |
| 提案中 | 見積もりや提案書を出した |
| 受注・失注・保留 | 結果が出た。保留は、時期を待っている状態 |
表計算から始め、必要になったら CRM へ
CRM は Customer Relationship Management の略で、日本語では「顧客関係管理」と訳されます。顧客とのやりとりを一か所に記録し、チームで共有するための仕組みやソフトのことです。
始めたばかりで件数が少ないうちは、表計算のシートで十分です。1社を1行にし、上の項目を列にします。次のようなことが起き始めたら、CRM を検討します。
- 次の行動の期日の見落としが増えてきた
- 担当者が増え、同じ会社を別々に追ってしまう
- 送信記録と商談の記録を、手で二重に入力している
ツールを選ぶ基準は、第10章で説明します。
どちらを使う場合も、ルールは同じです。商談の当日中に入力すること、次の行動の期日を必ず入れること、自由に書く欄より選択肢を多くすることの3つです。選択肢にしておくと、あとで集計しやすくなります。
やってみよう
1. 返信を仕分ける
次の5つの返信(架空の例)を、8-2の8種類に分け、最初にする行動を書きます。
「来年の4月以降なら考えられます」→ 時期が早い:時期と再連絡の許可を確かめる(例文3) 「総務ではなく、情報システム部の担当です」→ 担当違い:お礼と、回してもらえるかの確認(例文4) 「料金表はありますか」→ 質問:料金のページを示し、短い説明を提案(例文1) 「今後、このような連絡は不要です」→ 停止の依頼:NGリストに反映してから返す(例文6) 「詳しく聞きたいので、来週どこかで」→ 前向き:候補3つと予約リンクを送る(例文8)
2. 自社のヒアリングシートを作る
8-5の表を表計算に写し、自社の商材に合わせて質問を直します。聞いた内容を書く列と、「未確認」に印をつける列を足すと、そのまま記録に使えます。
3. 返信対応のルールを決める
チームで次の4つを決め、紙1枚にまとめます。
- 返事をするまでの目安(例:営業時間中の返信は当日中)
- 共有のアドレスを見る時刻と、担当が休むときの代わりの人
- 停止の依頼をNGリストに反映する期限と、反映する人
- 苦情を回す先(責任者の名前)
この章のまとめ
- 返信を受けたら、種類を分け、送信記録と照らし、記録してから返す
- 返事は早いほどよい。社内で「営業時間中の返信は当日中」などの目安を決める
- 返信は8種類に分けて返す。断り・停止の依頼には引き、苦情は責任者に回す
- 日程は、候補を3つほど文で書き、予約リンクも添える
- 商談の前に相手を調べ、仮説から質問を作り、時間の配分を決める
- 初回の商談は聞くことが中心。BANT や MEDDIC は、聞く観点のチェックリストとして使う
- 商談のあとは当日中にお礼と要点を送り、次の約束を決める
- 段階の定義をそろえて記録する。表計算から始め、必要になったら CRM に移る
この章の参考資料
- 「The Short Life of Online Sales Leads」(James B. Oldroyd ほか、Harvard Business Review 2011年3月号)https://hbr.org/2011/03/the-short-life-of-online-sales-leads
- 「Budget Authority Need Timeframe (BANT) Criteria Template v3.3」(IBM、2013年)https://public.dhe.ibm.com/software/pdf/tr/SAMPLE-BANT_for_XYZ_Company_1JF-XXXXXX.pdf
