フォーム営業の教科書 第4部 育てる・仕組みにする

第9章 数字で改善する

アポツム編集部情報は2026年11月時点

フォーム営業を続けていると、「今月は返信が少ない」「この文面が良さそうだ」と、感覚で判断する場面が増えます。感覚は大切ですが、それだけでは、どこを直せば商談が増えるのかが分かりません。人によって見立てが違えば、チームの話し合いもかみ合いません。

この章では、フォーム営業の結果を数字で見て、改善につなげる方法を説明します。指標の定義をそろえ、商談の目標から必要な数を逆算し、どの段階で止まっているかを見立てます。そのうえで、2つの案を比べる A/B テストの設計と、費用対効果の見方を学びます。

読み終えるころには、表計算で管理表を1つ作り、毎週の数字から「次に変えること」を1つ決められるようになります。数を増やす前に、率を上げる。そのための道具が、この章の内容です。

9-1 数える前に、定義をそろえる

数字で改善する第一歩は、数え方を決めることです。同じキャンペーンでも、何を分母にするかで率は大きく変わります。「返信率2%」と聞いても、送信数で割ったのか、受付確認数で割ったのかで意味が違います。

この本では、次の定義で数えます。

指標計算式・数え方注意すること
送信数送ろうとした数送らないと決めた会社は含めない
受付確認数完了画面などで受け付けを確かめた数エラー・不明は含めない
受付確認率受付確認数 ÷ 送信数送信の手順の点検に使う
返信数相手の担当者が書いた返信の数自動返信は含めない
前向きな返信数話を聞く・資料がほしいなどの返信返信数の内数として数える
返信率返信数 ÷ 受付確認数狙いと文面の良し悪しを見る
商談数(アポ数)商談の日程が決まった数予約リンクからの予約も含める
アポ率商談数 ÷ 受付確認数いちばん大事な率
受注数・受注率受注した数。受注数 ÷ 商談数結果が出るまで時間がかかる
停止の依頼数「今後は送らないで」と言われた数返信の内数とし、別の欄にも記録する

分母には、送信数ではなく受付確認数を使います。送信数には、エラーで届かなかった分が混じるからです。受付確認率は、送る手順に問題がないかを見るための数字として、別に追いかけます。

図1フォーム営業で数える段階
フォーム営業で数える段階:送信数、受付確認数、返信数、商談数、受注数
図の内容を文字で読む
  1. 送信数送ろうとした数
  2. 受付確認数受け付けを確かめた数
  3. 返信数相手の担当者が書いた返信
  4. 商談数商談の日程が決まった数
  5. 受注数受注した数

数え方のルールを先に決める

表の定義に加えて、次の5つをチームで決めます。決めたら、管理表の先頭の行に書いておきましょう。

  1. 締めの日:送ってから何日後に数字を確定するか(例:送信から14日後)。返信は数日遅れて届くことがあるため、締めをそろえないと比べられません。
  2. キャンペーンの単位:狙う相手と文面が同じまとまりを、1つのキャンペーンにします。
  3. 返信の種類:前向き・質問・資料の希望・時期が早い・担当違い・断り・停止の依頼・苦情に分けます。それぞれの返し方は第8章で説明しています。
  4. 商談の数え方:日程が決まった時点で1件とします。実際に行ったかどうかは、別の欄に記録します。
  5. 同じ会社の扱い:同じ会社の2人から返信があっても、1社として数えます。

よくある失敗

  • 分母を送信数にしていて、受付確認率が上がっただけなのに「返信率が上がった」と喜ぶ
  • 締めの日が違うキャンペーンを並べ、早く送ったほうを「良い」と判断する
  • 予約リンクからの予約を数え忘れ、商談数を少なく見積もる
  • 停止の依頼を断りと混ぜてしまい、NGリストへの反映が漏れる

9-2 公開されている数字の読み方

「フォーム営業の返信率は平均で何%か」は、多くの人が気になる点です。調べると、営業支援会社などが公開している記事が見つかります。そこでは、次のような記述が見られます(記事の題名と発行者は、この章の参考資料に挙げています)。

記事に示されている数字数え方・根拠
アポ率は 0.5〜1%程度が目安書き手の会社の支援実績から。分母の定義は書かれていない
反応率は 1〜3%程度、アポ率は 0.3〜1%程度一般的な水準として紹介。根拠の調査は示されていない
各社が公表する反応率は 0.3〜7%程度分母に何を含めるかで値が変わると指摘

ほかに、アポ率8%を記録した支援の事例を載せた記事もあります。工場の設備の点検という、狙いを絞った商材での例です。ただし、その記事自身が、どの商材や業種でも同じになるとは限らないと断っています。また、「反応」には資料の請求や断りの連絡も含む、と定義している記事もあります。

このように、公開されている数字には大きな幅があります。反応率の公表値だけでも、低いものと高いもので20倍を超える開きがあります。どれも、公的な統計ではありません。多くはサービスを売る会社が、自社の経験や一般論として示したものです。業種・商材・狙い方・数え方といった条件で大きく変わるため、目安として眺めるにとどめ、判断は自社の数字で行います。

分母が変わると、同じ結果でも数字が変わる

1つのキャンペーンを例に、数え方の違いを試算してみます。数字は説明のための仮のものです。

  • 送信数 1,000社、受付確認数 750社、返信 15件(うち前向き 6件)、商談 5件
  • 返信率:15 ÷ 750 = 2.0%(送信数で割ると 15 ÷ 1,000 = 1.5%)
  • 前向きな返信率:6 ÷ 750 = 0.8%
  • アポ率:5 ÷ 750 ≒ 0.67%(送信数で割ると 5 ÷ 1,000 = 0.5%)

同じ結果なのに、どれを報告するかで 0.5% にも 2.0% にも見えます。公開記事の中にも、アポ率の分母は宛先の数ではなく、送信に成功した数にするよう勧めるものがあります。この本の受付確認数と同じ考え方です。

公開されている数字を見るときは、次の点を確かめましょう。

  • 分母は送信数か、受付確認数か
  • 分子に、断りや自動返信を含むか
  • 「アポ」は日程が決まった数か、商談を行った数か
  • どんな業種・商材・期間の数字か
  • 数字を出した会社は、何を売っているか

9-3 商談の目標から逆算する

送る数は、気分や作業の余力で決めるものではありません。受注の目標から逆算して決めます。第3章で決めた目的とゴールを、ここで数字に直します。

図2受注の目標から逆算する
受注の目標から逆算する:受注の目標、必要な商談数、必要な受付確認数、必要な送信数、必要な候補の数
図の内容を文字で読む
  1. 受注の目標月に何件受注したいか
  2. 必要な商談数受注の目標÷受注率
  3. 必要な受付確認数商談数÷アポ率
  4. 必要な送信数受付確認数÷受付確認率
  5. 必要な候補の数送信数÷送ってよい割合

式にすると、次のとおりです。上から順に計算します。

  • 必要な商談数 = 受注の目標 ÷ 受注率
  • 必要な受付確認数 = 必要な商談数 ÷ アポ率
  • 必要な送信数 = 必要な受付確認数 ÷ 受付確認率
  • 必要な候補の数 = 必要な送信数 ÷ 送ってよい割合

「送ってよい割合」とは、リストの候補のうち、「営業お断り」の表示やフォームがないことなどで除いたあとに残る割合です。リストの作り方と除き方は、第4章で説明しています。

計算の例

例文逆算の計算例(率はすべて説明のための仮の数字)
受注の目標:月2件
受注率:20%/アポ率:0.8%
受付確認率:80%/送ってよい割合:70%

必要な商談数:2 ÷ 0.20 = 10件
必要な受付確認数:10 ÷ 0.008 = 1,250社
必要な送信数:1,250 ÷ 0.80 ≒ 1,563社
必要な候補の数:1,563 ÷ 0.70 ≒ 2,233社
1営業日あたりの送信数:1,563 ÷ 20日 ≒ 78社

ここで使った率は、計算の流れを示すための仮の数字です。目安や平均ではありません。実際には、自社の過去のキャンペーンの率を使います。まだ数字がない場合は、第3章の「小さく試す計画」で得た率を仮に置き、数がたまるたびに計算し直します。

逆算した数が現実的かを確かめる

逆算で出た数は、そのまま目標にする前に、次の3点で確かめます。

  • 候補の量:同じ会社に重複して送らないので、狙う相手の数には限りがあります。狙う会社が全部で6,000社なら、月2,233社では3か月たらずで一巡します(6,000 ÷ 2,233 ≒ 2.7)。
  • 作業の時間:1社の下調べと文面に15分かかるなら、1,563社で約391時間です(1,563 × 15 ÷ 60)。1人の担当者では到底こなせません。
  • 商談を受ける時間:10件の商談に、準備30分と商談60分がかかるなら、月15時間です。返事が遅れない体制があるかも確かめます。

数が合わないときは、率を上げる

逆算した数が現実的でないとき、送る数をむやみに増やすのは避けます。代わりに、率を上げる方法を考えます。

上の例で、アポ率が 0.8% から 1.2% になったとします。必要な受付確認数は約833社に減ります(10 ÷ 0.012 ≒ 833)。アポ率は 0.8% のままでも、受注率が 20% から 25% になれば、必要な商談数は8件です。受付確認数は1,000社で足ります(8 ÷ 0.008)。数を追うより、率を上げるほうが、相手にも自社にも負担が小さいのです。

9-4 どこで止まっているかを見立てる

数字が伸びないときは、段階ごとの率を出し、前のキャンペーンと比べます。どの段階の率が下がったかで、見直すところが変わります。

止まっている段階サインよくある原因打ち手
候補 → 送信送ってよい割合が低い「営業お断り」やフォームのない会社が多い情報源と選ぶ条件を見直す(第4章)
送信 → 受付確認受付確認率が低い入力エラー、文字数の超過、必須項目の漏れ送信の手順を点検する(第7章)
受付確認 → 返信返信率が低い狙いがずれている、冒頭で用件が伝わらない狙う顧客像・きっかけ・冒頭の3行(第3章・第5章)
返信 → 商談前向きな返信が商談にならない返事が遅い、日程の往復が多い、お願いが重い返信の速さ、予約リンク、オファー(第3章・第8章)
商談 → 受注受注率が低い課題が合わない、決める人がいない狙う顧客像と商談の進め方(第3章・第8章)

よくあるのは、返信率が低いと見て、すぐ文面を書き直してしまうことです。しかし、受付確認率が下がっているだけなら、直すべきは送信の手順です。上の段階から順に、率を確かめていきましょう。

層に分けて見る

全体の率だけを見ると、良い層と悪い層が混ざって平均されます。業種や規模、提案のきっかけで分けて見ると、手がかりが見つかります。

あとから層を分けて見つけた差は、手がかりであって結論ではありません。分け方を何通りも試せば、偶然の差もどこかで見つかるからです。気になる差が見つかったら、次のキャンペーンで、その層を比べるテストとして確かめ直します(9-6)。

「止める合図」も数字で持つ

返信や商談だけでなく、相手の負担を表す数字も追います。次の2つです。

  • 停止の依頼率:停止の依頼数 ÷ 受付確認数
  • 苦情の数:強い不満や、送ったこと自体への抗議の数

これらが前のキャンペーンより明らかに増えたら、送るのをいったん止めて、狙いと文面を見直します。「前回の2倍になったら止める」のように、止める基準を前もって社内で決めておくと迷いません(基準の数字は例です。自社で決めてください)。停止の依頼を処理する流れは、第11章で説明します。

9-5 改善の順番を決める

直したいところが見つかっても、一度に全部は変えられません。変えたことと結果の関係が分からなくなるからです。改善は、次の順番で進めるのが基本です。

  1. 数え方を正す:定義と記録がそろっていないと、どの改善も評価できません。
  2. 狙う相手を見直す:誰に送るかは、ほかのすべての率に効きます。
  3. オファーを見直す:相手にお願いする「最初の一歩」が重すぎないかを確かめます。
  4. 冒頭と提案の理由を見直す:最初の3行で、用件と「なぜ御社か」が伝わるかを確かめます。
  5. 返信からの流れを見直す:返事の速さや、予約リンクの使い方を確かめます。
  6. 細かいところを試す:件名の言い回し、送る曜日などです。

上の段階ほど、結果を大きく変える力があります。反対に、細かい違いは効果が小さく、良し悪しを見分けるのに多くの数が必要です(9-6 で説明します)。小さな言い回しの調整は、大きな見直しが済んでからにしましょう。

改善の候補に点数をつける

候補がいくつもあるときは、3つの観点で1〜3点をつけ、合計の高いものから試します。

改善の候補(記入例)効果の見込み手間の少なさ相手への負担の小ささ合計
展示会に出展する会社に絞る3238
資料の案内を予約リンクつきに変える2338
冒頭に「なぜ御社か」を1文足す2237
送る数を倍にする1113

「相手への負担の小ささ」を観点に入れておくと、数を増やすだけの案が自然と後回しになります。送る数を増やすのは、率が十分に上がり、候補にも余裕があるときに限りましょう。

改善の記録を残す

何をいつ変えたかを残しておかないと、数か月後に「なぜこの文面にしたのか」が分からなくなります。次の型で、変えるたびに1行ずつ残します。

例文改善の記録(記入例)
日付:11月4日
キャンペーン:製造業・展示会の出展企業
変えたこと(1つだけ):冒頭に出展する展示会の名前を入れた
理由:返信率が前回より下がり、冒頭で用件が伝わっていないと考えた
見る指標:返信率(締めは送信から14日後)
結果:(締めの日に記入)
次にすること:(結果を見て記入)

9-6 A/B テストで確かめる

第3章では、小さく試す計画の立て方を説明しました。ここでは、比べる数と判定のしかたを、統計の基礎から補います。

A/B テストとは、2つの案(A と B)を同じ条件で送り、結果を比べる方法です。同じ層の候補を2つに分け、同じ期間に、1か所だけ違う文面を送ります。違いが1か所だけなので、結果の差を、その違いの効果と考えられます。

手順

  1. 問いを一文で書く:例「冒頭に提案のきっかけを書くと、返信率が上がる」。
  2. 見る指標を1つ決める:返信率、前向きな返信率、アポ率のどれか1つにします。
  3. 変えるところを1つ決める:A は今の文面、B は冒頭だけを変えた文面、のようにします。
  4. 必要な数を見積もる:下の「必要な数の目安」で計算します。
  5. 候補を無作為に2つに分ける:表計算で各行に「=RAND()」の式で乱数を入れます。乱数は計算し直すたびに変わるので、値として貼り付けて固定してから、その順に並べ替えます。上半分を A、下半分を B にします。担当者が選ぶと、反応の良さそうな会社が片方に偏るからです。
  6. 同じ期間に送り、締めの日まで待つ:A と B は同じ週に、同じ手順で送ります。
  7. 判定して記録する:下の「結果の判定」で計算し、9-5 の改善の記録に残します。

テストのために、送る数を増やす必要はありません。もともと送る予定の候補を、2つに分けて使います。

必要な数の目安

率の差を見分けるのに必要な数は、次の式で大まかに見積もれます。1992年に、医薬の分野の統計家 Robert Lehr が論文で示した、覚えやすい近似です。

  • 1つの案あたりの受付確認数 ≒ 16 × p × (1 − p) ÷ d²
  • p:2つの案の率の平均(予想でよい)
  • d:見つけたい率の差

この式は、有意水準5%(両側)、検出力80% で計算したときの近似です。有意水準5%とは、本当は差がないのに「差がある」と判断してしまう危険を、5%までに抑えるという意味です。検出力80%とは、見つけたい大きさの差が本当にあるときに、それを見つけられる見込みが80%という意味です。

計算の例です。今の返信率が2%で、新しい文面で4%に上がるかを確かめたいとします。

  • p =(0.02 + 0.04)÷ 2 = 0.03
  • d = 0.04 − 0.02 = 0.02
  • 16 × 0.03 × 0.97 ÷ 0.02² = 16 × 0.0291 ÷ 0.0004 ≒ 1,164

1つの案あたり約1,200社、2つの案を合わせて約2,300社の受付確認が必要です(1,164 × 2 ≒ 2,328)。同じ式で、いくつかの場合を試算すると次のようになります。

図31案あたりに必要な数(試算)
1案あたりに必要な数(試算):2%と4%を比べる、1%と2%を比べる、2%と3%を比べる、0.5%と1%を比べる
図の内容を文字で読む
  • 2%と4%を比べる約1,200社
  • 1%と2%を比べる約2,400社
  • 2%と3%を比べる約3,900社
  • 0.5%と1%を比べる約4,800社

1%と2%なら約2,400社、2%と3%なら約3,900社、0.5%と1%なら約4,800社です。率が低いほど、また差が小さいほど、多くの数が必要になることが分かります。ここから、次の4つの方針が出てきます。

  • アポ率より返信率で比べる:アポ率は率が低く、比べるには大きな数が要ります。アポ率は、あわせて記録しておきます。
  • 大きな違いを試す:件名の一語より、狙う層やオファーの違いのほうが差が出やすく、少ない数で見分けられます。
  • 数が足りなければ、ためる:同じ条件で数週間送り、合計で判定します。
  • 足りないまま決めるときは、仮の判断と書いておく:次のテストで確かめ直します。

結果の判定(比率の差の検定)

締めの日が来たら、差が偶然の範囲かどうかを、次の手順で確かめます。統計では「比率の差の検定」と呼ばれる方法です。

  1. 2つの案を合わせた率 p =(A の返信数 + B の返信数)÷(A の受付確認数 + B の受付確認数)
  2. ばらつきの目安 SE = √(p ×(1 − p)×(1 ÷ A の受付確認数 + 1 ÷ B の受付確認数))
  3. z =(B の率 − A の率)÷ SE
  4. z の絶対値が 1.96 以上なら、有意水準5%で「差がある」と判断する

計算の例です(数字は説明のための仮のものです)。A と B で受付確認がそれぞれ1,200社あり、A は返信24件(2.0%)、B は返信42件(3.5%)でした。

  • p =(24 + 42)÷ 2,400 = 0.0275
  • SE = √(0.0275 × 0.9725 ×(1 ÷ 1,200 + 1 ÷ 1,200))≒ 0.00668
  • z =(0.035 − 0.020)÷ 0.00668 ≒ 2.25

2.25 は 1.96 より大きいので、「B のほうが返信率が高い」と判断できます。もし B の返信が30件(2.5%)だったら、z は約0.83 です。この場合は「差があるとはいえない」となります。

表計算では、z から「p値」という数字も出せます。p値は、本当は差がないとしたときに、今の差かそれ以上の差が偶然に出る確率です。式は「=2*(1-NORM.S.DIST(ABS(z),TRUE))」で、z の所には z のセルを入れます。p値が 0.05 未満なら、有意水準5%で差があると判断します。上の例の z ≒ 2.25 なら、p値は約0.025 です。

この計算は、数がある程度多いときに使える近似です。返信が数件しかないときは当てになりません。数が少ないときには、別の方法を使います。米国の国立標準技術研究所(NIST)の統計の手引きは、「フィッシャーの正確確率検定」がよい選択だとしています。統計ソフトで計算できます。

やってはいけないこと

  • 途中で何度も結果を見て、差が出た時点で止める:差がないのに「差がある」と判断する危険が、何倍にも増えます。Evan Miller「How Not To Run an A/B Test」が、この問題を指摘しています。必要な数と締めの日は、送る前に決めておきます。
  • A と B を別の週に送る:時期の違いが混ざります。
  • 2か所以上を同時に変える:どちらが効いたか分かりません。
  • 「差があるとはいえない」を「同じ」と読む:今の数では見分けられなかった、という意味にすぎません。

9-7 表計算でつくる管理表

ここまでの数字は、表計算のシートが2枚あれば集計できます。1枚目は1社への1回の送信を1行にした「送信」のシート、2枚目はキャンペーンを1行にした「集計」のシートです。

「送信」のシートには、第7章の送信記録の表をそのまま使います。そこに、集計のための列を足します。返信と商談の記録のしかたは、第8章で説明しています。

「送信」のシートに足す列

次の例では、集計に使う列を左に寄せています。第7章の列(送信ID・受付の日時・URL・文面の全文など)は、この右に続けます。

列項目入れるもの(記入例)
Aキャンペーン名製造業_展示会_11月
B案A または B(テストしないときは空欄)
C法人番号13桁の番号。重複の確認に使う
D会社名株式会社〇〇
E層製造業・50〜300人
F結果受付確認/エラー/不明/送らなかった
G返信の種類前向き/質問/断り/停止の依頼 など
H商談の日程11月12日(決まっていなければ空欄)
I商談の実施実施/延期/取り消し
J受注受注/失注/検討中

送る直前に「営業お断り」の表示に気づいて送らなかった会社は、第7章のとおり「送らなかった」と記録します。送信数には数えません。

「集計」のシートの列と式

例文集計シートの列と式(2行目の例)
A列 キャンペーン名(例:製造業_展示会_11月)
B列 送信数     =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$F:$F,"<>送らなかった")
C列 受付確認数   =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$F:$F,"受付確認")
D列 受付確認率   =IFERROR(C2/B2,"")
E列 返信数     =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$G:$G,"<>")
F列 前向きな返信数 =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$G:$G,"前向き")
G列 停止の依頼数  =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$G:$G,"停止の依頼")
H列 返信率     =IFERROR(E2/C2,"")
I列 商談数     =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$H:$H,"<>")
J列 アポ率     =IFERROR(I2/C2,"")
K列 受注数     =COUNTIFS(送信!$A:$A,$A2,送信!$J:$J,"受注")
L列 受注率     =IFERROR(K2/I2,"")
M列 停止の依頼率  =IFERROR(G2/C2,"")

A/B テストの結果を見るときは、条件に「送信!$B:$B,"A"」を足した式を、A と B の2行に分けて作ります。

週に1回、15分の振り返り

管理表は、見て判断するためのものです。週に1回、次の3つの問いに答えましょう。

  • どの段階の率が、前のキャンペーンと比べて変わったか
  • なぜ変わったと考えられるか(仮説)
  • 次に変えることを1つだけ決めるなら、何か

停止の依頼があった会社が、NGリストに入っているかも、このときに確かめます。

9-8 費用対効果で判断する

率が上がっても、費用がかかりすぎていれば続けられません。最後に、お金の面から見る4つの数字を押さえます。

  • 総費用 = 外に払う費用 + 社内の作業時間 × 1時間あたりの人件費
  • アポ1件あたりの費用 = 総費用 ÷ 商談数
  • 受注1件あたりの費用 = 総費用 ÷ 受注数
  • LTV(顧客生涯価値):1社の顧客が、取引を始めてから終えるまでに、自社にもたらす利益の合計

受注1件あたりの費用は、新しい顧客を1社得るためにかかった費用です。CAC(顧客獲得費用)とも呼ばれます。会社全体の CAC は、営業とマーケティングのすべての費用で計算します。ここでは、フォーム営業という1つの方法の分だけで計算します。

LTV の定義は、三井住友フィナンシャルグループの「DX-link」の用語解説を参考にしました。同じ解説には、いくつかの計算式が紹介されています。売上の形の式(例:顧客単価 × 購入回数 × 契約期間)もあれば、粗利率を掛ける式もあります。費用と比べるときは、粗利で計算するほうが判断を誤りにくくなります。

  • LTV(粗利で計算) = 1か月あたりの粗利 × 取引が続く月数
  • 回収にかかる月数 = 受注1件あたりの費用 ÷ 1か月あたりの粗利

計算の例

例文費用対効果の計算例(数字はすべて説明のための仮のもの)
期間:1か月
外に払う費用:50,000円(ツール・リストなど)
社内の作業時間:40時間 × 3,000円 = 120,000円
総費用:170,000円

商談数:8件 → アポ1件あたりの費用:170,000 ÷ 8 = 21,250円
受注数:2件 → 受注1件あたりの費用:170,000 ÷ 2 = 85,000円

顧客1社の月額:30,000円、粗利率:70%
1か月あたりの粗利:21,000円
取引が続く月数:24か月(仮定)
LTV:21,000 × 24 = 504,000円

LTV ÷ 受注1件あたりの費用:504,000 ÷ 85,000 ≒ 5.9倍
回収にかかる月数:85,000 ÷ 21,000 ≒ 4.0か月

LTV と CAC の関係には、よく引用される目安があります。出どころは、David Skok の記事「SaaS Metrics 2.0」です。SaaS とは、月額などで使うクラウドのソフトウェアのことです。記事は、優れた SaaS の事業では、LTV が CAC の3倍を上回るとしています。CAC の回収が12か月を超えると利益が乏しい、とも述べています。

ただし、これは SaaS という一つの業界の考え方です。記事自身も、あくまで目安で、破ってよい場面もあると断っています。健全な事業でも、立ち上げの時期には満たさないことが多い、とも書いています。使うときは、次の2点に気をつけます。

  • 業種と取引の形で変わる:1回きりの販売や、契約期間の短い商材には、そのまま当てはめられません。
  • 計算の範囲をそろえる:この節の受注1件あたりの費用は、フォーム営業の分だけで計算しています。サイトや資料づくり、管理する人の時間など、ほかの方法と共通の費用が入っていないぶん、小さく出やすくなります。目安とそのまま比べると、甘い判断になりがちです。

「3倍」「12か月」は合格の線ではなく、自社の基準を決めるときの材料の一つとして使います。

費用対効果を見るときの注意

  • 社内の時間を入れ忘れない:外に払う費用が0円でも、時間を金額に直すと小さくない費用になります。
  • 受注は遅れて出る:商談の月と受注の月はずれます。キャンペーンごとに、3か月後・6か月後に受注を数え直します。
  • 安いアポが良いアポとは限らない:アポ1件あたりの費用だけでなく、受注率も一緒に見ます。
  • 数が少ないうちは揺れる:受注が2件なら、1件増えるだけで受注1件あたりの費用は3分の2になります。

外注やツールを使ったときの費用の比べ方は、第10章で説明します。

やってみよう

課題1 自社の逆算シートを埋める

次のシートに、自社の数字を入れてみましょう。過去の数字がない率は、仮の数字を置き、「仮」と書いておきます。

例文逆算シート(記入例は架空の数字)
受注の目標(月):__件(記入例:3件)
受注率:__%(記入例:25%・仮)
アポ率:__%(記入例:1.0%・仮)
受付確認率:__%(記入例:85%)
送ってよい割合:__%(記入例:60%)

必要な商談数:受注の目標 ÷ 受注率 = __件(記入例:12件)
必要な受付確認数:商談数 ÷ アポ率 = __社(記入例:1,200社)
必要な送信数:受付確認数 ÷ 受付確認率 = __社(記入例:約1,412社)
必要な候補の数:送信数 ÷ 送ってよい割合 = __社(記入例:約2,353社)

確かめること
・狙う相手の会社は、全部で何社あるか:__社
・作業の時間は足りるか:1社__分 × 送信数 ÷ 60 = __時間
・率を上げるなら、どの段階から手をつけるか:__

課題2 第3章のテスト計画に「数」と「判定」を足す

第3章で書いたテスト計画シートに、この章で学んだ次の項目を書き足しましょう。

例文テスト計画シートに足す項目(記入例は架空の内容)
見る指標(1つ):(記入例:返信率。アポ率もあわせて記録する)
今の率と、見つけたい率:(記入例:2% → 4%)
1案あたりに必要な数:16 × p ×(1 − p)÷ d² =(記入例:約1,200社)
数が足りないときの扱い:(記入例:同じ条件で3週間ためて、合計で判定する)
分け方:(記入例:乱数で並べ替えて半分ずつ)
締めの日:(記入例:各送信から14日後)
判定の方法:(記入例:z の絶対値が1.96以上なら「差がある」)
途中で見ない約束:はい/いいえ

この章のまとめ

  • 率の分母は受付確認数にそろえる。締めの日・キャンペーンの単位・返信の種類も先に決める
  • 公開されている返信率やアポ率は、条件で大きく変わる。出典と数え方を確かめ、比べる相手は前の自社にする
  • 送る数は、受注の目標から逆算する。数が合わないときは、送る数より率を上げる
  • 段階ごとの率を前と比べ、止まっている段階に合った打ち手を選ぶ。停止の依頼率も「止める合図」として追う
  • 改善は、狙う相手 → オファー → 冒頭 → 返信からの流れ → 細部の順に、1つずつ進める
  • A/B テストは、必要な数を先に見積もり、無作為に分け、締めの日まで結果を見ない
  • アポ1件あたりの費用、受注1件あたりの費用、LTV を、社内の時間も含めて計算する

この章の参考資料

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