フォーム営業の教科書 第4部 育てる・仕組みにする

第12章 ほかの方法と組み合わせる

アポツム編集部情報は2026年11月時点

「フォームで送った会社から、なかなか返信が来ない」。「展示会や電話もやっているが、ばらばらに動いていて、同じ会社に何度も連絡してしまった」。フォーム営業を続けていると、こうした悩みにぶつかります。フォーム営業だけで、狙う会社すべてと商談をつくるのは難しいことです。

組み合わせは、うまく使えば、1社との接点を厚くできます。しかし、やり方を誤ると「しつこい会社」という印象を残します。この章では、まず組み合わせの原則を押さえます。そのうえで、電話・メール・手紙・SNS・展示会・セミナー・広告との組み合わせ方を説明します。さらに、ABM の考え方、自社サイトとの連携、年間の計画の立て方を扱います。

最後に、AI で送る側が増え、受け手の対策も進むなかで、これからのフォーム営業がどう変わるかを考えます。読み終えるころには、自社の新規開拓を1本の計画として組み立てられます。信頼される送り手として続けていく道筋も描けるようになります。

12-1 組み合わせの考え方

方法ではなく「役割」で考える

組み合わせを考えるとき、「電話とフォームのどちらがよいか」と方法から考えると迷います。先に、1社との関係の中で、どんな役割が必要かを考えましょう。

図1組み合わせで考える5つの役割
組み合わせで考える5つの役割:知ってもらう、会話を始める、関心を深める、日程を決める、関係を続ける
図の内容を文字で読む
  • 知ってもらう広告・展示会・SNSの発信
  • 会話を始めるフォーム・手紙・電話
  • 関心を深める資料・事例・セミナー
  • 日程を決める予約リンク・メール・電話
  • 関係を続ける定期の案内・セミナー

知ってもらうのは広告・展示会・SNS、会話を始めるのはフォーム・手紙・電話です。関心を深めるのは資料・事例・セミナー、日程を決めるのは予約リンクやメール、電話です。関係は定期の案内やセミナーで続けます。

フォーム営業がいちばん得意なのは、「会話を始める」役割です。相手の会社に、理由のある最初の一通を届けられます。一方で、まだ自社を知らない相手に名前を覚えてもらうことや、迷っている相手の背中を押すことは得意ではありません。そこを、ほかの方法で補います。

組み合わせの5つの原則

組み合わせるときは、次の5つを守ります。

  1. 1社を1つの台帳で見る:方法ごとに別の表で管理しません。会社ごとに、いつ・誰が・どの方法で・何を伝えたかを1か所にまとめます。
  2. NGリストと停止の依頼は、すべての方法で共通にする:フォームで停止を頼まれた会社に、電話や手紙で連絡しません。電話で断られた会社に、フォームで送りません。
  3. 連絡の間隔に上限を決める:方法を問わず、1社への連絡は「〇週間に1回まで」のように、社内で上限を決めます。数字は、自社の商材と相手の反応を見て決めます。
  4. 同じことをくり返さない:方法を変えるたびに、新しい情報を渡します。新しい事例、セミナーの案内、相手の動きにふれた話などです。
  5. 方法ごとに結果を分けて数える:どの方法がきっかけで商談になったかを記録します。数え方は第9章で説明します。

よくある失敗

  • フォームで送った翌日に電話をかけ、さらにメールと手紙も送る。相手は「囲まれた」と感じる。
  • 営業部とマーケティング部が別々に連絡し、相手から「御社から何度も来る」と言われる。
  • 停止の依頼を受けたのがフォームの担当者だけで、電話の担当者に伝わっていない。

どれも、原則の1と2が守られていないことが原因です。NGリストの作り方は第4章、社内での管理は第11章、接点の記録のしかたは第8章で説明します。

12-2 フォームと電話

送ったあとに電話をかけるべきか

フォームで送ったあと、「届いているか確かめたい」と電話をかけたくなることがあります。良い面と悪い面を並べてみましょう。

  • 良い面:埋もれていた文面を思い出してもらえることがある。担当の部署を教えてもらえることがある。
  • 悪い面:相手の手を止める。窓口の担当者に、届いた連絡を探させる負担をかける。「送ったうえに電話まで来た」と、しつこい印象を与えやすい。

この本では、返信のない相手に、確かめるためだけに電話をかけることはすすめません。電話は、相手にとってはっきりした用件があるときに使います。

電話をかけてよいのは、たとえば次のような場合です。

  • 相手から返信があり、電話で話したいと言われた
  • 資料を求められて送ったあと、相手が電話での説明を望んだ
  • 日程の調整で、急いで確かめたいことがある

反対に、次のような場合はかけません。

  • 断りの返事や、停止の依頼を受けている
  • サイトに「営業お断り」の表示がある
  • 「フォームを見ていただけましたか」と確かめることだけが目的
  • 担当者の名前を聞き出すことだけが目的

かける前に確かめること

電話をかける前に、次の点を確かめます。

  • 台帳で、その会社への前回の連絡がいつだったか
  • NGリストと、停止の依頼の記録に入っていないか
  • 相手の営業時間内か。決算期などの忙しい時期ではないか
  • 伝える用件を、1つに絞れているか
  • 断られたときに、どこに記録するか

話し方の例

フォームでの提案に返信があり、資料を送った相手から「電話で説明してほしい」と頼まれた場面の例です。名乗り、用件、相手の都合の確認、断りやすさの順に話します。

例文例文1 電話での説明を頼まれた相手にかける
お忙しいところ失礼いたします。
株式会社△△の山田と申します。
先日は資料をご希望いただき、ありがとうございました。
お電話でのご説明をご希望と伺いましたので、ご連絡いたしました。
いま、10分ほどお時間をいただいてもよろしいでしょうか。

(相手が「今は忙しい」と言った場合)
失礼いたしました。メールで候補の日時をお送りしますので、ご都合のよい時間をお知らせください。

(最後に)
本日はお時間をいただき、ありがとうございました。
改めまして、株式会社△△ 営業部の山田です。
ご不明な点は、03-0000-0000 か、メール yamada@example.com までお寄せください。
今後、このようなご連絡が不要でしたら、遠慮なくお申し付けください。すぐに控えます。

電話で断られたら

断られたら、その場でお礼を言って、短く切り上げます。理由を聞くとしても、一度だけにします。電話のあとは、すぐに台帳とNGリストに記録し、ほかの方法でも連絡しないようにします。事業者どうしの取引で、特定商取引法の電話勧誘販売などの規定がどう扱われるかは、第2章で説明します。

12-3 フォームとメール

返信が来たら、やりとりはメールへ

フォームで送った文面に返信が来たら、その後のやりとりはメールで行います。相手が返信に使ったアドレスに返すのが基本です。日程の決め方や返信の種類ごとの返し方は、第8章で説明します。

接点の有無で使い分ける

メールとフォームは、相手との接点の有無で使い分けます。

  • すでに接点がある相手:名刺を交換した、セミナーに参加してもらったなど。担当者に直接メールを送ります。
  • 接点がない相手:会社が公開している窓口であるフォームから送ります。

同じ会社に、メールとフォームの両方から同時に送ってはいけません。広告や宣伝のメールを送るときは、特定電子メール法の決まりを守る必要があります。どんな相手にメールを送ってよいかは、第2章で確かめてください。

内容と名乗りをそろえる

フォームで送った文面と、メールでのやりとりの内容をそろえます。担当者の名前、紹介したサービス、予約リンク、資料が食い違うと、相手は混乱します。署名の形も統一しておきましょう。

返信がない相手にフォームから2通目を送るときも、前回と違う新しい情報を渡します。例文は第6章、回数と間隔の上限の決め方は第11章で扱います。

12-4 フォームと手紙・DM

紙が得意なこと

手紙や郵送のDMには、フォームにはない強みがあります。

  • 決める立場の人に宛てられる:宛名に部署や役職を書いて送れます。
  • 形に残る:机の上に置かれ、あとで読み返されることがあります。
  • 資料を同封できる:事例の冊子や、相手の業界に合わせた資料を一緒に送れます。
  • 手間をかけたことが伝わる:手書きの一筆を添えると、印象に残りやすくなります。

その代わり、印刷と郵送の費用がかかります(費用の目安は第1章で示しました)。そのため、手紙は狙う会社を絞って使うのが基本です。後で説明する ABM の重点の会社などが向いています。

組み合わせるときの考え方

手紙とフォームを同じ会社に使うときは、次の点に気をつけます。

  • 同じ時期に、同じ内容を両方で送らない:相手から見ると、同じ売り込みが2回届いたことになります。
  • 役割を分ける:たとえば、手紙では経営者に向けて事業の課題を伝え、フォームは使わない。あるいは、フォームで窓口に送り、返信があった会社にだけ資料を郵送する。
  • 間をあける:手紙を送ったあとにほかの方法で連絡するなら、12-1 で決めた間隔を守り、新しい情報を加えます。

宛名と個人情報

手紙の宛名に担当者の個人名を書くときは、その名前をどこで知ったかに注意します。名前は個人情報にあたります。取得のしかたや利用目的の考え方は第2章、リストでの扱いは第4章で説明します。名前が分からないときは、「〇〇部 ご担当者様」と部署あてにすれば十分です。

例文例文2 重点の会社の経営者に送る手紙(約300字)
株式会社〇〇
代表取締役 〇〇様

突然のお手紙にて失礼いたします。株式会社△△の山田と申します。
貴社が来春、県内に3つ目の工場を開かれると拝見し、お便りしました。
当社は、複数の工場の設備点検の記録を一つにまとめる仕組みを提供しています。
同じ規模の部品メーカーで、点検の記録にかかる時間を見直した事例を同封いたしました。
ご関心があれば、同封の案内にある予約ページから、15分のオンライン説明をお選びください。

今後このようなご案内が不要でしたら、お手数ですが下記までお知らせください。すぐに送付を止めます。

株式会社△△ 営業部 山田太郎
〒000-0000 東京都〇〇区〇〇1-2-3
電話 03-0000-0000 メール yamada@example.com

12-5 フォームと SNS・展示会・セミナー・広告

SNS:送り手の顔を見せる

フォームで送った文面を読んだ相手は、送り手の会社や担当者を調べることがあります。そのとき、会社や担当者が日ごろから役に立つ発信をしていれば、「ちゃんとした会社だ」と感じてもらえます。SNS は、売り込みの道具というより、送り手の顔を見せる場として使うのが向いています。

SNS と組み合わせるときの注意は、次のとおりです。

  • 相手の会社の公式アカウントの発信は、提案のきっかけを知る手がかりになる。ただし、個人のアカウントから連絡先を集めてリストにしない。
  • SNS で相手に直接連絡する機能を使うときは、そのサービスの規約を確かめる。つながってすぐの売り込みは避ける。
  • フォームとSNSで、同じ相手に同じ時期に売り込まない。

展示会:前と後でフォームを使い分ける

展示会は、フォーム営業と相性のよい行事です。使い方は、相手が出展する場合と、自社が出展する場合で違います。

  • 相手が出展する:出展は、相手が新しい取引先を探しているサインかもしれません。提案のきっかけとして、文面の「なぜ御社か」に使えます(第3章)。
  • 自社が出展する:出展の前に、来てほしい会社へフォームで招待を送ります。売り込みより招待のほうが、相手は応じやすいと考えられます。招待の文面は、第6章のセミナーの案内の例文を参考に組み立てられます。
  • 展示会のあと:名刺を交換した相手には、すでに接点があります。フォームではなく、名刺のメールアドレスにお礼を送ります。

セミナー:関心を深める場にする

セミナーやオンラインの説明会は、「関心を深める」役割を担います。いきなり商談をお願いするより、「〇〇の事例を紹介する30分の説明会」に誘うほうが、相手の負担は小さくなります。最初の一歩(オファー)の考え方は第3章、セミナーの案内の例文は第6章で扱います。

質問が多かった会社や、個別の相談を希望した会社には、参加のお礼とあわせて、メールで個別の説明を提案します。

広告:文面と同じ言葉で迎える

広告は、「知ってもらう」役割を担います。フォーム営業と組み合わせるときは、次の2つを考えます。

  • 言葉をそろえる:狙う業種向けの広告と、フォームの文面で、同じ課題を同じ言葉で伝えます。文面を読んで検索した相手が、同じ言葉のページにたどり着けるようにします。
  • 案内するページを用意する:広告やフォームのリンク先は、トップページではなく、その業種や課題に合わせたページにします。

サイトを見た人の閲覧のデータを使う広告では、個人に関する情報の扱いが問題になることがあります。個人情報保護法のほか、閲覧者の情報を外部に送るときの決まり(電気通信事業法の外部送信の規律)が関係する場合もあります。プライバシーポリシーでの説明など、法律やルールの確認が必要です。考え方は第2章を参考にし、迷ったら専門家に相談してください。

12-6 ABM:狙う会社を絞って、組み合わせる

ABM とは

ABM(アカウントベースドマーケティング)とは、狙う企業をあらかじめ決めて働きかける考え方です。営業とマーケティングが協力し、その企業ごとに進め方を考えます。「アカウント」は、ここでは取引の相手となる企業を指します。

ABM の定義は、説明する人や団体によって少しずつ違います。2016年のビジネス+IT の解説記事も、確固たる定義はまだないとして、複数の定義を紹介しています。その一つは、IT サービスのマーケティングの団体 ITSMA の定義です。ABM は、個々の顧客企業とその必要に明確に焦点を当てるものとされています。多くの会社に広く知らせるやり方とは反対に、少ない会社を深く知り、1社ごとに働きかけるのが特徴です。

フォーム営業との関係

フォーム営業で「1社ずつ理由を書く」ことは、ABM と同じ方向を向いています。違うのは、見る範囲の広さです。

  • フォーム営業は、1通の文面で、1社の窓口に届ける。
  • ABM は、1社の中の複数の関係者と、複数の方法、長い期間を、まとめて設計する。

ABM の中では、フォーム営業は「会話を始める」入口の一つになります。ここで誤解しやすいのは、ABM が「1社にたくさん連絡すること」ではない点です。1社について深く調べ、その会社にいちばんふさわしい入口を選ぶことが ABM の考え方です。フォームから同じ会社に何度も送ることは、ABM でも避けます。

進め方

ABM でフォーム営業を使う流れは、次のとおりです。

図2ABMでフォーム営業を使う流れ
ABMでフォーム営業を使う流れ:重点の会社を選ぶ、関係者を書き出す、仮説と提案を作る、入口を決める、接点を記録する、振り返る
図の内容を文字で読む
  1. 重点の会社を選ぶICPに最も合う数十社に絞る
  2. 関係者を書き出す窓口・担当部署・決裁者
  3. 仮説と提案を作る会社ごとの課題と最初の一歩
  4. 入口を決めるフォーム・手紙・展示会から選ぶ
  5. 接点を記録する1社1台帳で全員が見る
  6. 振り返る月1回、次の一手を決める
  1. 重点の会社を選ぶ:狙う顧客像(ICP)に最も合う会社を、数十社ほど選びます。選び方は第3章と第4章を参考にします。
  2. 関係者を書き出す:その会社で、誰が窓口になり、誰が使い、誰が決めるかを想像して書き出します。名前ではなく、役割で書けば十分です。
  3. 仮説と提案を作る:会社ごとに、課題の仮説と、最初に差し出すもの(資料、診断、事例の紹介など)を決めます。
  4. 入口を決める:フォーム、手紙、展示会での声かけなどから、その会社に合う入口を1つ選びます。
  5. 接点を記録する:誰がいつ何をしたかを、1社1台帳に記録し、営業とマーケティングの全員が見られるようにします。
  6. 振り返る:月に1回、重点の会社ごとに状況を見直し、次の一手を決めます。

会社の段階を分ける

すべての会社に同じ手間はかけられません。会社を3つの段階に分けると、手間の配分が決めやすくなります。

段階会社の数の目安進め方
重点数十社1社ずつ調べ、手紙やフォームを組み合わせる
準重点数百社業種ごとに理由を書き分けたフォーム営業
その他それ以外広告や記事で知ってもらい、反応を待つ

会社の数は、自社の人手に合わせて決めます。表の数は、考え方を示すための目安です。

12-7 自社サイト・資料・事例と連携する

送ったあと、相手はサイトを見る

フォームの文面を読んで関心を持った相手は、送り手の会社のサイトを見に行くと考えるのが自然です。「どんな会社か」「本当に役に立つのか」を確かめるためです。文面がよくても、サイトで疑問が解けなければ、返信にはつながりにくいでしょう。

第1章でも紹介した HubSpot Japan の2026年の調査では、買い手がどんな情報を信頼するかも聞いています。信頼できるとされた割合が高かったのは、次の3つでした(HubSpot Japan「日本のBtoB購買に関する意識・実態調査2026」)。

  • 価格・追加費用・契約条件が明瞭な情報:60.6%
  • 提供会社・販売会社の担当者からの個別説明:59.8%
  • 提供会社・販売会社の導入事例:57.0%

また、提供会社のサイトや資料などに期待することでは、次の2つが上位でした。

  • 価格や費用の目安がわかる:42.9%
  • メリットだけでなく注意点も説明されている:33.8%

この調査は、従業員50人以上の企業で購買に関わった1,573人へのインターネット調査です。自社の業界で同じ傾向があるとは限りません。それでも、費用の目安と、事例と、注意点をサイトで示すことの大切さは、多くの会社に当てはまると考えられます。

送る前のサイトの点検

フォーム営業を始める前に、自社のサイトを次の点で見直しましょう。

  • 会社概要:所在地、電話番号、代表者、設立年など、実在する会社だと分かる情報があるか
  • サービスのページ:文面で紹介したサービスの説明が、すぐに見つかるか
  • 事例:相手と似た業種や規模の事例があるか。掲載の許可を得ているか
  • 費用の目安:料金表か、費用の決まり方の説明があるか
  • よくある質問:導入の期間、契約の条件、注意点に答えているか
  • 資料:ダウンロードのときに入力させる項目は、必要な分だけか
  • 予約ページ:文面の予約リンクから、迷わず日程を選べるか
  • 停止の依頼の受け付け先:連絡が不要な人が、どこに伝えればよいか分かるか
  • プライバシーポリシー:集めた情報の扱いを説明しているか

文面とページをそろえる

文面で約束したことが、リンク先にあることを確かめます。たとえば、文面で「物流会社の事例」と書いたなら、リンク先の最初に物流会社の事例を置きます。トップページに案内して、相手に探させてはいけません。

事例や実績の数字は、誇張しないことが大切です。根拠のない「業界最安」「満足度No.1」などの表現は、信頼を損なうだけでなく、法律の問題になることもあります。表現の考え方は第5章で説明します。

文面ごとにリンク先を分けておくと、どの文面から何人がページを見たかを数えられます。数字の使い方は第9章で扱います。

12-8 年間の計画の例

組み合わせは、その場の思いつきで行うと、連絡が重なったり、空白の期間ができたりします。1年の計画を先に立て、どの時期に、どの方法を、どの会社に使うかを決めておきましょう。

計画を立てる手順

  1. 自社の予定を書き出す:展示会への出展、セミナー、新サービスの発表、自社の繁忙期を書きます。
  2. 相手の業界の予定を調べる:決算期、業界の展示会、繁忙期を調べます。忙しい時期の提案は後回しにされがちです。
  3. 方法を割り当てる:月ごとに、主に使う方法と、対象の会社の段階(重点・準重点など)を決めます。
  4. 振り返りの日を決める:月ごとの振り返りと、半年・1年の見直しの日を先に入れます。

年間の計画の例

次の計画は、4月に年度が始まる会社が、自社でも展示会に出る場合の例です。春に戦略とリストを見直し、初夏に重点の会社へ手紙を送ります。夏はフォーム営業を小さく試し、秋は展示会の前後に招待とお礼を送ります。冬はセミナーと予算の時期に合わせた提案を行い、3月に振り返ります。

図3年間の計画の例(4月始まり)
年間の計画の例(4月始まり):4〜5月、6月、7〜8月、9月、10〜11月、12月、1〜2月、3月
図の内容を文字で読む
  1. 4〜5月
    戦略とリストを見直す前年の結果を振り返る
  2. 6月
    重点の会社へ手紙ABMの対象を決める
  3. 7〜8月
    フォーム営業を小さく試す文面を2種類で比べる
  4. 9月
    展示会の招待を送る自社が出展する場合
  5. 10〜11月
    展示会後のお礼と商談接点のある人はメール
  6. 12月
    セミナーで関心を深める相手の繁忙期を確かめる
  7. 1〜2月
    相手の予算の時期に提案相手の決算期に合わせる
  8. 3月
    1年を振り返るNGリストを整える

計画を回すときの注意

  • 計画どおりに進まなくても、NGリストと停止の依頼の確認は毎回行います。
  • 新しい方法を足すときは、一度に1つにします。いくつも同時に始めると、どれが効いたか分からなくなります。
  • 1年が終わったら、方法ごとに「商談1件にかかった時間と費用」を比べ、次の年の配分を決めます。計算の方法は第9章で説明します。

12-9 これからのフォーム営業

最後に、これからのフォーム営業を考えます。ここでは、統計で確かめられる事実と、そこからの見通しを分けて書きます。

AI で送る側が増える

総務省の『令和8年版 情報通信白書』に、企業での生成AI(文章などを作り出すAI)の使われ方の調査が載っています。日本の回答者は、デジタル化に取り組む従業員10人以上の企業の、管理職以上の515人です(インターネット調査)。日本の企業全体の割合ではない点に注意してください。

生成AIを「積極的に活用する」か「領域を限定して利用する」方針だと答えた割合は68.9%でした。前年度の調査の49.7%から上がっています。方針を「わからない」と答えた人を除くと、86.4%が、何らかの業務で生成AIを使っていると答えました。業務の種類別では、「議事録・メール作成補助」での活用が約7割で最も高く、次いで「営業・販売」が約6割でした(総務省『令和8年版 情報通信白書』)。

ここから考えられるのは、営業の文面を作る手間が下がり、受け手に届く連絡はさらに増えるということです。AI で作った、似たような文面も増えるでしょう。そうなると、受け手は見分けるのに疲れ、営業の連絡をまとめて後回しにするかもしれません。

一方で、これは「本当にその会社を調べたか」が伝わる文面の価値が上がるということでもあります。AI は下書きや下調べに役立ちますが、事実の確認と、最後の判断は人が行います。AI の使いどころと注意点は、第10章で説明します。

受け手の対策が進む

送る側が増えれば、受け手も対策をとります。いま見られる対策には、次のようなものがあります。

  • 「営業お断り」の表示:フォームの近くに「営業目的のご連絡はご遠慮ください」などと書く会社があります。表示がある会社には送りません。
  • 提案の窓口を分ける:問い合わせの種別に「ご提案・営業」を設ける会社があります。提案を受け付ける専用のページを用意する会社もあります。こうした窓口がある場合は、そこを使います。
  • CAPTCHA:人とコンピューターを見分けるための確認の仕組みです。自動化された道具による大量の送信を防ぐために使われます(IPA「CAPTCHA」)。CAPTCHA を自動で突破してはいけません。人が確かめて送るか、送らないかのどちらかです(第7章)。
  • 受信の自動仕分け:届いた問い合わせの文章を AI で読み、営業目的と判定した連絡を分ける仕組みも出てきています。判定の結果を印として残すだけのものもあれば、営業と判定した連絡を担当者に回さないものもあります。

こうした仕組みがどこまで使われているかを示す統計は、調べた範囲では見つかりませんでした。使われる場面が増えれば、営業の連絡は人の目に触れる前に分けられ、読まれずに終わることも増えるでしょう。分けられたあとで読まれるかどうかは、冒頭で用件と理由が正直に伝わるかにかかっていると考えられます。

判定を避けるために用件をぼかすことは、種別を偽るのと同じく、してはいけません。受け手が「営業の連絡は受け取らない」と決めているなら、その判断を尊重します。

なお、営業目的の送信に料金を請求すると書いているサイトもあります。これも営業の連絡を断る意思の表れですから、送りません。サイトの利用規約や表示の考え方は、第2章で説明します。

信頼される送り手になるには

受け手の対策が進むほど、ルールを守る送り手と、そうでない送り手の差は広がります。これからのフォーム営業で信頼されるための条件を、まとめておきます。

図4信頼される送り手の条件
信頼される送り手の条件:名乗りがはっきりしている、理由が具体的である、断りやすい、断りを守る、重ねて送らない、種別を偽らない、調べると安心できる、誇張しない
図の内容を文字で読む
  • 名乗りがはっきりしている会社名・担当者・連絡先を書く
  • 理由が具体的であるなぜ御社かを事実で示す
  • 断りやすい停止の案内を必ず書く
  • 断りを守る停止の依頼をすべての方法に反映
  • 重ねて送らない1社1台帳で連絡の間隔を守る
  • 種別を偽らない営業・提案の種別で送る
  • 調べると安心できるサイトに実体と事例がある
  • 誇張しない実績や数字は事実だけを書く

どれも、この本でくり返し説明してきたことです。特別な技術ではなく、相手の立場で考える習慣の積み重ねです。受け手に「この会社の連絡なら読んでもよい」と思ってもらえることが、これからのフォーム営業でいちばんの強みになります。

やってみよう

課題1 1社1台帳を作る

いま連絡している会社を5社選び、次の表で、方法を問わずすべての接点を1か所にまとめてください。表計算の1シートを1社にするか、会社名の列を足して1つの表にまとめます。

日付方法・担当伝えたこと相手の反応
(例)5月10日フォーム・山田出店にふれて事例を案内返信なし
(例)6月20日手紙・佐藤経営者あてに事例を同封予約ページから予約

(例)は、記入のしかたを示す架空のものです。書き終えたら、次の3点を確かめます。

  • 前回の連絡から、社内で決めた間隔をあけているか
  • 方法を変えるたびに、新しい情報を渡しているか
  • 停止の依頼や断りを、すべての担当者が見られる場所に書いているか

課題2 重点の5社で ABM の計画を作る

狙う顧客像に最も合う会社を5社選び、1社ずつ次の項目を書き出します。

例文記入例 ABMの計画シート(架空の例)
会社名:株式会社〇〇(物流業、従業員300人)
提案のきっかけ:来春、県内に新しい配送拠点を開く予定(会社のお知らせより)
関係者(役割):窓口=総務/使う人=配送の現場の責任者/決める人=経営者
課題の仮説:拠点が増えると、配送の記録がばらばらになりやすい
最初に差し出すもの:同じ規模の物流会社の事例と、15分のオンライン説明
入口:経営者あての手紙(フォームは使わない)
次の一手:返信があれば現場の責任者を交えた説明。なければ半年は連絡しない
送信者の情報:株式会社△△ 営業部 山田太郎 電話 03-0000-0000 メール yamada@example.com
停止の案内:手紙の末尾に「今後のご案内が不要な場合のお知らせ先」を書く

5社分を書くと、会社によって入口や最初に差し出すものが違うことに気づくはずです。その違いこそが、1社ずつ考える意味です。

課題3 自社サイトを受け手の目で点検する

自社のサイトを、初めて見る人のつもりで開きます。12-7 の点検の項目を1つずつ確かめ、足りないものに印をつけます。そのうえで、フォーム営業の文面に入れているリンクを、実際に押してみてください。

  • リンク先で、文面で約束したことがすぐに見つかるか
  • 予約リンクから、迷わず日程を選べるか
  • 連絡が不要な人が、どこに伝えればよいか分かるか

足りないものは、文面を直すより先に整えます。サイトが整うと、同じ文面でも返信が変わることがあります。

この章のまとめ

  • 組み合わせは、方法ではなく「知ってもらう・会話を始める・関心を深める・日程を決める・関係を続ける」という役割で考える。フォーム営業が得意なのは、会話を始める役割である。
  • 1社を1つの台帳で見て、NGリストと停止の依頼をすべての方法で共通にする。連絡の間隔には上限を決める。
  • 返信のない相手に、確かめるためだけの電話はかけない。電話は、相手にとってはっきりした用件があるときに使う。
  • 接点のある相手にはメール、ない相手にはフォーム。手紙は重点の会社に絞り、同じ時期に同じ内容を重ねて送らない。
  • ABM は、1社に何度も連絡することではなく、1社を深く知り、いちばんふさわしい入口を選ぶ考え方である。
  • 文面を読んだ相手はサイトを見る。費用の目安、事例、注意点を示し、文面とリンク先の内容をそろえる。
  • 1年の計画を先に立て、時期による違いは自社の記録で確かめる。
  • AI で送られる連絡は増えると考えられ、受け手の対策も進んでいる。名乗り、具体的な理由、断りやすさ、断りを守ることが、信頼される送り手の条件になる。

この章の参考資料

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